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大分地方裁判所 昭和45年(行ク)1号 決定

主文

1、相手方が、訴訟参加人に対し、昭和四五年一二月二五日、指令漁港第八九九号をもつてなした、臼杵市大字大泊字宇土尻八五番地の八から同市大字大泊字西ノ山四七七番地の一に至る国道二一七号線地先および同市大字大泊字宇土尻一〇二番地の二、同一〇三番地の一、同一〇四番地、同二一五番地の三ならびに同市大字大泊字小浦四四二番地の地先海面二一八、一五七平方メートル、内護岸敷七、五七九平方メートル、埋立敷二一〇、五七八平方メートルの公有水面埋立免許処分の効力は本案判決が確定するに至るまでこれを停止する。

2  申立費用は相手方の負担とする。

理由

一、申立人の本件申立の趣旨および理由、相手方のこれに対する意見はそれぞれ別紙に記載するとおりである。

二、一件記録を精査すれば、

本件海域において、申立人平川清治は第二種共同漁業権の行使権者であり、その余の申立人ら一五名は第一種共同漁業権の行使権者であること、本件埋立免許処分は訴訟参加人の申請にもとづきそのセメント製造工場建設用地を造成することを目的として発せられたものであるところ、参加人は造成工事を急いでおり現に一部の埋立工事に着手したこと、本件公有水面の埋立を免許するには、漁業権を一部放棄するについて、水産業協同組合法五〇条四号所定の特別決議のほかに、漁業法第八条の規定を類推し、その漁業権の内容たる第一種共同漁業を営んでいる組合員のうち関係地区に住所を有する者の三分の二以上の書面による総会前の同意、これらによらないまでも、総会時におけるこれらの者の右に類する明確な同意を要するものと解すべきところ、本件においては右の同意を欠いた違法があること、

以上の事実が一応認められる。

三、右の事実によれば、埋立工事の進行により申立人らは漁場を失い、これを原状に回復することは困難であつて、この損害を避けるためには緊急に本件埋立工事の続行を停止するほかはないというべきであり、かつ、申立人らの本件埋立免許処分の取消請求についても理由がないとはいえない。

よつて、本件執行停止の申立は理由があるのでこれを認容することとし、行政事件訴訟法二五条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり決定する。(高石博良 土井博子 井関正裕)

当事者目録

申立人 首藤日出生

ほか一五名

申立人ら代理人 吉田孝美

右同 岡村正淳

相手方 大分県知事

立木勝

右相手方代理人 後藤久馬一

右同 加来義正

右同 安部万年

訴訟参加人 大阪セメント株式会社

右代理人 後藤久馬一

右同 加来義正

執行停止決定申立書

申立の趣旨

一、被申立人が昭和四五年一二月二五日、申立外大阪セメント株式会社に対して指令漁港第八九九号をもつてなした臼杵市大字大泊字宇土尻八五番地の八から、同市大字大泊字西の山四七七番地の一に至る国道二一七号線地先及び、同市大字大泊字宇土尻一〇二番地の二、同一〇三番地の一、同一〇四番地、同二一五番地の三並に同市大字大泊字小浦四四二番地の地先、公有水面二一八、一五七平方メートル、内護岸敷七、五七九平方メートル、埋立敷二一〇、五七八平方メートルの区域にかゝる公有水面の埋立を免許する旨の処分の効力は本案判決が確定するまでこれを停止する。

二、申立費用は被申立人の負担とする

との御裁判を求める。

申立の理由

一、(当事者)

申立人等は、いずれも申立外臼杵市漁業協同組合(以下単に協同組合と略称する)の組合員で、本件埋立の対象になつている「公有水面」において各自漁業を営む権利(各自行使権)を有している漁民であつて、本件公有水面埋立に直接の利害関係を有する者である。

二、(処分)

被申立人は昭和四五年一二月二四日申立の趣旨記載の公有水面埋立の免許処分をなした。

三、(処分の違法性―取消事由)

本件免許処分は、右協同組合が正当に漁業権を放棄し、従つて本件「公有水面に関し権利を有する者」(公有水面埋立法第四条)のなかつたことを前提にしている。しかしながら昭和四五年三月二一日の臨時総会における、右協同組合の右漁業権放棄の決議は以下述べるとおり不存在ないしは当然無効であるから、本件免許処分も違法であつて取消を免れない。

(一) 「漁業生産に関する基本的制度を定め」(漁業法第一条)た漁業法は、行使規則の変更に関してですら、総会の議決前に行使権者のうち、関係「区域内に住所を有するものゝ三分の二以上の書面による同意」を要求している(同法第八条三項)。

右法条は、最終的に行使権を失なつてしまうことになる漁業権放棄の場合にも、適用ないし準用があるものと解しなければならないのは当然である。けだし、適用ないし準用がなく、漁業権放棄は総会での単なる特別決議事項として三分の二以上の多数で自由に可能であるとすれば、本件の場合本件漁場で第一種〜第三種共同漁業及び知事許可漁業を営む権利を有する者は総組合員数七二六名の四分の一位の員数にしか過ぎないのであるから、行使権者の総意に反してですら総行使権者から行使権すなわち生活権を奪うことが可能であるという不合理な結果にならざるを得ないが、それが漁業法や水産業協同組合法の予定しているところでないことは明白である。

このように、漁業権放棄には漁業法第八条三項の適用ないし準用があることが明白なのにその手続は全くとられていないのであるから、三月二一日の臨時総会の議決の有無を論ずるまでもなく、決議としては、不存在ないし当然無効であることは明らかである。

(二) 仮りに漁業法第八条三項の適用ないし準用がないと仮定しても

(1) 漁業権放棄は総会の特別決議事項とされている(水協法第五〇条、定款第四四条)。

ところが自由且つ公正に意思表示のできる投票にしたのでは、三分の二以上の多数による議決は不可能であると判断した右協同組合執行部が起立採決に固執したゝめに、議場が紛糾している隙に賛、否、中立の確認もなさず、賛成多数ということで議決したことにされてしまつたのであるから、特別決議事項としての決議は不存在ないし、当然無効である。

(2) 本件漁業権放棄を討議採決する総会の三ヶ月間以上も以前の昭和四四年一二月一六日に、申立外臼杵市長と右協同組合は、申立外大阪セメント株式会社(以下単に大阪セメントと略称する)、同株式会社戸高鉱業(以下単に戸高鉱業と略称する)、同臼杵市議会議長を立会人として組合が漁業権を放棄し、市がその補償として一億三千万円を支払い、大阪セメントが本件漁場を埋立てることを内容とする契約を、更に臼杵市長と大阪セメントは戸高鉱業と臼杵市議会議長を立会人として、本件漁場を大阪セメントの工場用地として一億一千万円で譲渡する旨の契約をない、戸高鉱業はこれらの契約を前提として本件漁場の背後地を時価より高価に購入していた。

従つて、三月二一日の総会では、漁業権放棄を自由に討議採決することは許されず、いやが応でも漁業権放棄をさせざるを得ない客観情勢にあつた。そこで、これらの関係者は、臨時総会にむけて買収や饗応を重ね、圧力を加え、更に放棄賛成のためなら委任状出席や書面決議書、本人出席の二重、三重の出席を認める等の暴挙もあえてした。

そして、当日の議決方法としては、あくまで投票による採決を避け、起立採決の方法をとつた。関係者の自由な意思表示を前提とする議決としては、当日の議決は当然無効の議決であつたと言わなければならない。

以上のように右協同組合の漁業権放棄の決議は不存在ないしは当然無効であるから、有効な決議の存在を前提とする本件埋立免許は明らかに違法であり、その取消は免れない。

なお、附言すれば、公有水面の埋立ては、公有水面埋立法第二条により知事の免許を要することになつているが、同法第四条が「公有水面に関し権利を有する者」があるときは知事は免許ができないことになつているがために(本件の場合は埋立地が漁港であつたために更に漁港法第三九条四項により農林大臣の認可を要した)事前に漁業権を放棄させ「公有水面に関し権利を有する者」がないようにするために三月二一日の臨時総会が開かれたのであつて、それは既に二月二一日に免許申請を受けていた被申立人の指導に基づくものであつた。

そして、三月二一日の臨時総会にも常広漁政課長補佐等が出席していたのであるから、被申立人は前述の決議を不存在ないし当然無効たらしめる数々の事実には知悉していたというより、寧ろ共犯者であつたのである。

「明白かつ重大な瑕疵」ある行政処分が当然無効であることは、学説判例が一致して認めているところである(最判昭36.3.7、同37.7.5)。

本件埋立免許処分は前述のようにその瑕疵の重大性においては云うに及ばず、その明白性においても何ら欠けるところはなく、従つて、取消は免れない。

四、(執行停止の必要性と緊急性)

大阪セメントが埋立申請をして既に一〇ヶ月を経過している。漁民の権利生活権の無視と公害企業の故の遅延であつたのだから、当然の遅延ではあるが、大阪セメントは免許さえ交付されゝば直ちに埋立に着手し遅延をとりもどそうとしているのである。

漁場が埋立てられれば、漁民である申立人等が回復不能な損害を蒙るのは勿論であるが、埋立が完成しなくとも、埋立てが始まること自体申立人等に回復不能な損害を与えることになるのである。

申立人等は埋立免許処分の取消訴訟を提起しているが、埋立は直ちに始まろうとしているため、本案訴訟確定を待つていては回復不能な損害を蒙むることになるので本申立に及んだ次第である。

相手方の意見書

申立の趣旨に対する意見

本件執行停止申立を却下する。

申立費用は、申立人らの負担とする。

との判決を求める。

申立の理由に対する意見

第一、被申立人の主張

原告には、次の理由で本件処分の取消を求める法律上の利益がなく、原告適格なく、事案請求は不適法な訴として却下されるべきものであるから、本件執行停止申立は許されない。

(一) 即ち、申立外臼杵市漁業協同組合は設定免許を受けていた共第三〇号共同漁業権に関し、本件埋立免許の目的たる埋立施工区域を含む一部漁業区域につき漁業権の放棄をすべく、昭和四五年三月二三日大分県知事に対し、右漁業権の漁場区域の変更の免許申請をなし、同知事は大分海区漁業調整委員会の諮問を経たうえ同年五月二〇日右変更を免許した。

右協同組合の右漁業権の漁場区域の変更(これは、本件埋立施工区域に関して漁業権の消滅を内容とするので漁業権の変更である。)の免許申請は、昭和四五年三月二一日の右協同組合の臨時総会の決議に基づいてなされたものであるが、その決議は水産業協同組合法第五〇条、右協同組合定款第四四条の要件を具えた有効なものであることは第二、三、(二)記載のとおりである。

されば、右漁業権の変更免許は適法になされた有効のものであるところ、この免許に対する不服申立については、漁業法第一三五条の二により異議申立が前置され、行政不服審査法第四五条で異議申立期間は処分のあつたことを知つた日の翌日から起算して六〇日以内であるので、申立人らが遅くともこの免許のあつたことを知つた昭和四五年七月一四日の翌日から六〇日以内に、右免許に対し申立人らないし申立人以外の者から何ら異議の申立はなされていないので、右免許の効力に関して申立人らにこれを争う方法なく、右免許の効力は確定した。

(二) 仮りに、右漁業権変更免許の前提たる前記臨時総会の決議に多少の瑕疵があるものと仮定して右変更免許の効力を争う場合、免許の取消と免許の無効ないし不存在を主張する二方法が考えられるが、免許の取消は前述の如く不服申立期間のうえからこれを争うことは既に出来なくなつており、申立人ら主張の如き瑕疵は決議取消の事由たるに過ぎず、かかる瑕疵は右免許に当然無効を来す重大かつ明白な瑕疵にあたらないので、無効の主張は出来ない。

(二) 従つて、右漁業権変更免許は適法に取消すことを得なくなつた現在、完全にその効力を有するものである。そこで本件埋立施工区域については前記協同組合は、共同漁業権を有しなくなつた。

よつて申立人らは、本件埋立施工区域につき、主張の如き漁業を営む権利を有しないので、これを有することを前提として本件埋立免許の取消を求めるにつき何ら法律上の利益がないわけであつて、本案に関し当事者適格がない。

第二、申立人らの申立は、本案について理由がない。

被申立人のなした本件埋立免許処分には、原告らが主張する違法はなく、本件処分の取消を求める原告らの本案請求は理由がないので、本件執行停止申立は許されない。

一、本件埋立免許は、本件埋立につき公有水面埋立法第四条第一号に規定する埋立に関する工事の施工区域における公有水面に関して権利を有していた前記協同組合らの同意を得た申立外大阪セメント株式会社の埋立の出願に対してなされたもので、適法なものである。

二、申立人ら申立の理由、第一、第二項は認め、第三項の(一)は争い、(二)のうち(1)の採決の際の状況並びに採決の方法についての申立人らの主張を否認し、(2)の三月二一日の総会の状況について否認し、第四項は争う。

三、申立人ら申立の理由についての反論

(一) 申立人らは、昭和四五年三月二一日の前記協同組合の臨時総会における同協同組合の漁業権放棄決議に関し、漁業権放棄の場合、漁業法第八条第三項の適用ないし準用があり、従つて右決議の際予め同法同条項該当組合員の書面による同意の手続を経てないので右決議は不存在ないし無効である旨主張する(申立の理由第三項(一))。

しかし、漁業法第八条第三項(これを準用する第五項)の規定は、明文で「漁業権行使規定の制定」ないし「その変更又は廃止」の場合について規定していること、この条項は昭和三七年法律第一五六号により新設され、同時に新設された水産業協同組合法第五〇条第五号は、従前からの第四号に規定の「漁業権又はこれに関する物権の設定、得喪又は変更」の項の外に「漁業権行使規則又は入漁権行使規則の制定、変更及び廃止」の項を規定し、両者を明確に区別していること、漁業法第八条第三項がその条文中にも「水産業協同組合法の規定による総会の前に」との文書があることから、立法者において意識的に明白に漁業法第八条第三項の書面による同意手続は漁業権行使規則の制定ないし収廃の場合にのみ適用されるものとして立法したものであることを推測するに難くない。

されば、申立人ら主張の如くいたずらに法を拡大ないし類推解釈することは(特にその主張が手続要件に関するものであるとき)許されるべきものではない。従つて、本件の場合に、漁業法第八条第三項の適用ないし準用あることを前提としての申立人らの主張は失当であり理由がない。

(二) 申立人らは、前記臨時総会において本件漁業権変更決議の際賛否の確認が行なわれていない旨、又買収、饗応、圧力があつた旨主張する(申立の理由、第三項(二))。

しかし、右決議の採決にあたつては、議長はまず反対者の起立を求めてその数を三名と確認し、ついで賛成者の起立を求めその数を確認するに代えて何れにも不起立の賛否不明者数を確認したところ、その数が七六名に過ぎず、反対者ならびに賛否不明者の数は僅かに七九名であつてその数は当日開会時出席者(議長を除き六九九名)の三分の一に充たず、その余の出席者はすべて賛成者であることを確認した。賛成者の数はその後の集計の結果によれば、議長を除く出席者七二五名から右反対者ならびに賛否不明者合計八一名を引いた六四四名である。本件漁業権変更の決議は、前記組合員の過半数以上が出席し、その三分の二以上の多数により、有効になされたものであつて、申立人らの主張には全く理由がない。

四、公有水面埋立法第四条によれば、埋立に関する工事の施工区域における公有水面に関し権利を有する者がある場合、同条第一号ないし第三号に規定する要件の何れか一つを具備するとき埋立の免許をすることが出来る(申立人らが主張する権利を有する者が埋立に同意したときに限つて免許できるものではない)。そして、本件では同条第二号の「其の埋立に因りて生ずる利益の程度が損害の程度を著しく超過するとき」という要件にも該当するものである。

(一) 本件埋立免許により承認された埋立の目的は、申立外大阪セメント株式会社のセメント製造工場用地造成のための護岸敷地、道路敷地、工場敷地の用に供するためである。

大阪セメントが本件工場進出にいたつたのは、次のごとき事情による。臼杵市には、めぼしい産業がなく他地域の発展に伴い人口流出過疎現象が著しくすすみ都市としてその機能、構造が衰退の一途を辿つていたため、市の発展と近代化の方策を見出すことに努め、昭和四三年工場誘致計画を立案し、その豊富な石灰石資源を活用することとし大阪セメントを誘致することに決定した。このことは、農水工併進施策を重点施策とする大分県の施政方針に合致するものである。

大阪セメントは、昭和四四年一〇月右誘致に応ずることを決定し、前記協同組合の埋立についての同意も得たので、本件埋立施工区域にセメント工場を建設すべく準備を開始した。

即ち、その計画では建設工事を昭和四六年三月より開始し昭和四八年内に第一期工事として、本件工場の大部分の建設を完了し昭和四九年より焼窯一基によりクリンカー月産一〇万トン、セメント月産二万トンを生産し、昭和五一年より焼窯二基によりクリンカー月産二〇万トン、セメント月産三万五〇〇〇トンを生産すべくこの工場建設に要する費用は総額一七億余円である。また、大阪セメントが右工場建設のために現在までに支出した金員は埋立用岩石採取並びに工場敷地としての土地買収費四億円、前記協同組合への漁業補償費一億一、〇〇〇万円、調査費二五〇万円である。

(二) 本件埋立により生ずる利益

(1) 本件埋立により造成される土地の価格は金一、三三〇、〇〇〇千円である。

(2) 大阪セメントが、本件工場で生産するセメント、クリンカーの販売高並びに利益は次表のとおりである。

年   度

販売高(千円)

利益(千円)

昭和四九年度

七、二〇〇、〇〇〇

四七、〇〇〇

昭和五〇年度

七、二〇〇、〇〇〇

四一一、〇〇〇

昭和五一年度以降

一四、四〇〇、〇〇〇

八〇〇、〇〇〇

(3) 大阪セメントの関連企業として、本件埋立地区に進出する株式会社戸高鉱業社が本件埋立地に建設する工場で生産する石灰石等の販売高並びに利益は、次表のとおりである。

年   度

販売高(千円)

利益(千円)

昭和四九年度

六八四、〇〇〇

一〇二、六〇〇

昭和五〇年度

六八四、〇〇〇

一〇二、六〇〇

昭和五一年度以降

一、三六八、〇〇〇

二〇五、二〇〇

(4) 本件埋立地に進出する大阪セメント並びに株式会社戸高鉱業社、戸高石灰化工株式会社から臼杵市が徴収する租税は次表のとおりである。

年   度

金   額

昭和四八年度

四〇、六九〇千円

〃四九〃

一二九、六五〇〃

〃五〇〃

一一三、〇六八〃

〃五一〃

一六五、一四六〃

〃五二〃

一四三、七七二〃

〃五三〃

一二六、五五七〃

〃五四〃

一一一、三〇七〃

〃五五〃

九九、四〇九〃

〃五六〃

八九、六三一〃

(5) 前記各社操業段階における地元中小企業への下請見込額は年間二二七、四〇〇千円ないし二六二、五〇〇千円である。

(6) 関連企業の給与、資材サービスの調達などで地元小売商店街の年間売上が三二〇、〇〇〇千円増加する。

(7) 設備投資時における地元受注見込額は八九〇、〇〇〇千円ないし二、一一〇、〇〇〇千円である。

(8) 従つて、本件埋立により生ずる利益は、生産という面から見れば毎年度ごとに(2)(3)の販売高合計相当額の利益を生むことになり、また、純粋な利益計算の面から見れば毎年度ごとに(2)(3)の各利益高並びに(4)(5)(6)の効果の合計高および一時的なものとして(1)(7)の金額の利益を生むこととなる。

(三) 本件埋立により生ずる損害

(1) 申立人らの漁業の実態

申立人らは、全員漁業以外の収入により生計の大部分をたてており、本件埋立施行区域を含む共第三〇号共同漁業権の漁場区域において第一種共同漁業のうち貝類漁業を営んでおり(うち三名は、一本釣ないし突棒漁業を兼ねる)本件埋立施工区域において申立人ら全員で、一年間にあげる漁獲の利益は、金二七万円でこの区域での依存度は極めて低い。

(2) 共第三〇号共同漁業権漁場区域における本件埋立施工区域の地位

本件埋立施工区域の面積は、共第三〇号漁場区域の面積の一〇〇分の一にも足りない狭少な部分であり従来から砂地と遠浅のため海水浴場として利用され漁業として活用されることが少なく、この区域からの漁獲の利益は年間(昭和四五年)共第三〇号共同漁業権関係で二、五六〇、〇〇〇円、知事許可漁業関係で、一四、〇一〇、〇〇〇円である。(なお共第三〇号漁業権漁場全区域における漁獲の利益は年間(昭和四五年)共第三〇号漁業権関係で、三四、三九〇、〇〇〇円、知事許可漁業関係で三七、一六〇、〇〇〇円である。)

(3) 従つて、本件埋立によつて生ずる損害は、

本件埋立により共第三〇号共同漁業関係並びに知事許可漁業関係が、その行使によつて得ていた右記載の利益金相当額と解される。

なお、本件埋立につき、大阪セメントは、海水汚濁防止に万全の措置をとり、また、埋立による漁船の運航への支障もなく、さらにセメント工場操業による共第三〇号漁業権漁場の汚染も考えられないから本件埋立により右損害以上の損害が発生することは考えられない。

(四) 本件埋立による利益と損害の比較

以上のとおり、本件埋立により生ずる利益は、造成される土地の価格約一三億円のみならず、その後毎年継続的に純利益だけで十億円を超えるのに比し、本件埋立により生ずる損害は、逸失利益として年間一千数百万円にしか過ぎず従つて、この利益は、著しく損害を超過しているものである。

第三、上述の如く、本件埋立免許処分は、公有水面埋立法第四条一・二号の各要件を充たす適法なものであるから、本件処分の取消を求める申立人らの本案請求は失当で棄却を免れない。

よつて、本案につき理由が全くないので、本件執行停止の申立は許されない所以である。              以上

相手方の補充意見書

被申立人は、昭和四六年一月三〇日付意見書を補充して、本件公有水面埋立免許が適法であることについて次のとおり主張する。

申立人ら主張のとおり、本件埋立免許は右組合が当該水面に関し漁業権を有していないことを前提としてなされたものである。(本件埋立免許申請がなされた昭和四五年二月当時は、右組合は当該水面に関し漁業権を有していたが、その後同年五月二〇日に漁業権の漁場区域の変更免許がなされているから、本件埋立免許がなされた同年一二月二五日当時には、右組合は当該水面に関しては漁業権を有していないものとして処理した)

ところで、本件埋立免許の適否は埋立免許が行われた時点を基準として判断すべきところ、次に述べるとおり右組合は、本件埋立免許当時当該水面に関しては漁業権を有していなかつたものであるから申立人らの主張は失当である。

申立人らは右組合が本件埋立免許当時、なお当該水面に関して「漁業権を有していたことの理由として右組合の漁業権放棄の決議は不存在ないし当然無効である。」としているが、漁業権放棄の決議が存在し、かつそれが無効でないことは被申立人において既に主張立証したところであり(もつとも不存在ないし無効に関する立証責任は申立人らにあると解する。)、仮りに何らかの理由によつて漁業権放棄の決議に瑕疵があつたとしても、右組合の当該水面に関する漁業権は本件埋立免許に先だつてなされた漁業区域の変更免許によつて確定的に消滅しているものである。

ところで右漁業区域の変更免許は漁業法第二二条に基づき大分県知事がなした行政処分であることは論をまたないところ、同条によれば、免許の基準として第二項は「知事は漁業調整その他公益に支障を及ぼすと認める場合は、前項の免許をしてはならない」と規定し、第三項は「第一項の場合においては、第一二条、第一三条の規定を準用する」としているのみであり、そのほかには、同法、同法施行法、同法施行令、同法施行規則の何れをみても、変更免許に関してその申請様式、審査基準、審査方法等を定めた規定は存しないのである。

いわんや水産業協同組合法第五〇条所定の総会の特別決議の存否は何ら変更免許に際して審査すべき事柄とはされていないのである。

ところで、本件変更免許は漁業法所定の大分海区漁業調整委員会の諮問を得、さらに、法定の要件を慎重に審査した上でなされたものであり、この免許の適否は漁業法第二二条を基準として判断さるべきものであり、総会の特別決議は理論上変更免許の適否とは何ら関係のない事柄である。

なお、仮りに総会の特別決議が変更免許の適否に関係があるとしても行政処分が無効であるというためには申立人も主張しているとおり当該処分に重大かつ明白な瑕疵が存在しなければならないのであるが、行政処分の瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から行政庁の誤認であることが外形上客観的に明白である場合を指すのであり、それはその誤認が一見看取しうるものであるかどうかにより決すべきであるとされ、また、客観的に明白とは処分関係人の知不知とは無関係に何人の判断によつてもほぼ同一の結論に達しうる程度に明らかであることを指すものとされている。

ところで、本件漁業区域の変更免許申請には適法に作成された漁業権放棄に関する組合の臨時総会議事録が添付されており、しかも、申立人らがその実体を欠くと主張する右臨時総会にしても、当該組合員の過半数が出席し、議案に対する賛成の議決が三分の二以上の多数に達したと認められる状況にあつたものであるから、これに何らかの瑕疵があつたとしても、これは漁業区域の変更免許を当然に無効ならしめるような明白な瑕疵にはあたらないものである。

なお、申立人らは漁業権放棄の議決に関しては漁業法第八条第三項の適用ないし、準用があつてしかるべきであると主張するが、その主張自体理由のないことは被申立人において既に反論したところである。しかして、水産業協同組合法第四八条、第五〇条は「漁業権又はこれに関する物権の設定、得喪又は変更」は総会の特別決議を要する旨規定しているだけであつて、漁業権の放棄に関する場合は総会決議に漁業法第八条第三項を適用ないし準用する旨の何らの規定も存しないのである。従つて、仮りに申立人ら主張の如く解するとしても、類推の域を出るものではない。そして、これは法的解釈の問題であつて見解の分れるところであるから、被申立人主張の如く、右規定は本件総会には関係のない規定であると解し、本件総会の議決が有効であることを前提としてなされた漁業区域の変更免許にはこれが当然無効になるような明白な瑕疵があるとは到底いえないものである。

以上要するに、本件漁業区域の変更免許には一見看取しうるような、また、何人の判断によつてもほぼ無効であるといえるような明白な瑕疵はないのである。

そうすると、右漁業区域変更免許は有効であり、これによつて組合が当該水面に関して有していた漁業権は確定的に消滅したというべく組合は、本件埋立免許がなされた当時には、当該水面には漁業権を有しておらず、従つて当該水面に関して組合が漁業権を有しないことを前提としてなされた本件埋立免許には何らの違反もない。

なお、念のために述べれば、漁業区域の変更免許と本件公有水面の埋立免許は、同じく大分県知事によつてなされているが、両者は法律の根拠を異にし、かつ、その性質、内容の異なる全く別個独立の処分であるから、仮りに前者に瑕疵があつたとしても、その瑕疵は後者に承継されるものではないのである(最判昭二八、四、一七行裁例集四巻四号七三四頁)。従つて前者の瑕疵を後者の瑕疵を構成するものではない。

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